研修医の誤診で高校生が亡くなったという報道に感じたこと
研修医が救急外来で患者さんのイレウスを見逃し、対応が遅れたことから、患者さんが亡くなってしまったというニュースを目にしました。患者さんは苦しんだでしょうし、ご家族の気持ちを思うといたたまれない気持ちになります。
けれど、研修医の先生は2人が関わったようですが「研修医が誤診をした」、「上級医に相談しなかった」という研修医の責任を伝える報道のみで、上級医は何をしていたのか?と思ったのです。
そもそも、上級医に相談すべきかどうかの適切な判断をするのも難しいのが、研修医ではないでしょうか?
私の研修医時代
私も色々な科を回る初期研修医を2年間、後期研修医を3年間経験しています。
初期研修の2年間は大学病院でしたが、上級医が全く関わらずに救急外来の患者さんを帰すことはまずありませんでした。
夜間の当直では患者さんが来院したり、入院中の患者さんに問題がなければ、上級医も休んでいるので、特に深夜から明け方に相談のために起こすのは勇気がいるものですが、ありがたいことに面倒見のよい先輩が沢山いる大学病院だったので、受診した患者さんについては全て、一緒にみてもらえました。
後期研修は、卒業した大学を出て、総合病院に就職しましたが、大学病院と違って医師の人数は少なく、1人の医師当たりの仕事量や当直回数も多くなりました。
当直中、上級医を起こして相談しても、怒られることはありませんでしたし、検査結果の判断も初めの数ヶ月は一緒に見てもらえました。しかし、慣れてくると段々口頭での報告のみになり、一緒に診察してもらう必要があるか、検査結果を見に来てもらう必要があるか、という判断を任されるようになります。
判断するのは医者なら当然と思われるかもしれませんが、経験が少ない自分が、上級医に相談すべき症例を見逃したら、という不安は常にありました。心配症の私は、報告や相談が多いので、上級医から「お前も医者だろう?」と言われたこともありましたが、それよりも判断ミスをしたらという不安が大きかったのです。
医師になって3,4年目の後期研修医でさえそうでしたから、初期研修2年目ではなおさらではないでしょうか?上級医は相談がなくても、自ら初期研修医が見ている患者さんについてチェックする方が、みな安心だと思います。
人に頼ろうというけれど
よく、1人で抱えずに人に頼ろうと言われますが、頼りたくても頼りにくかった状況を思い出しました。
2人目を出産後、当直免除や時短勤務をしていたのもあり、すでに職場に迷惑をかけてしまっているという自覚もあって、上級医や同僚との距離が遠くなってしまって頼りにくいと感じていました。
病院を移ってからは、緊急の患者さんをなかなか搬送できず、搬送できても快く受け入れてもらえることは少ない経験をしました。時間帯によっては文句を言われたりもしました。
自分が搬送や紹介を受ける病院にいたときには、紹介元の先生に文句をいうようなことはなかったのに、逆の立場になると頼りにくいなと思っていました。
だれでも失敗するものだけれど
よく、「完璧な人間はいない。だれでも失敗するものだ。」といわれますが、医師の失敗は取り返しがつかなくなることもあります。ですから、「失敗はだれにでもある」と割り切ることはできません。あの時ああしていればと繰り返し自分を責めると思います。
だからこそ、今回のニュースでは患者さんとご家族のことと同時に、ニュースに取り上げられてしまった研修医の先生たちのことを案じました。
当たり前に相談し合えたら
医師の世界も、専門科や病院の垣根を超えて気軽に相談できるような環境ならいいなと思います。それが、患者さんにとっても医師にとっても、安心と安全につながると思うからです。
私は愛着の問題から、人間関係を育むのが上手ではなく、人に頼りにくい性格です。そこに子育ても加わったことで、さらに他の医師たちと十分なコミュニケーションを取りにくくなっていたと思います。
しかし、勇気を出して頼ったけれど、助けてもらえなかった経験もあり、よい結果でなかった時に自分1人が矢面に立たされた経験もあります。
医師の失敗、特に患者さんの死は、患者さんやご家族にとってはもちろんですが、医師にとっても大きな衝撃を与え、深い心の傷になります。
その上で、今回のようにニュースになったとき、他の医師たちやスタッフたちも関わっているのに、病院が、研修医を主な原因として説明してしまったことで、若い医師たちはさらに深い心の傷を負ったのではないかと思います。
ですから、ご家族へのフォローや再発防止に向けて話し合うことは第一ですが、研修医の先生方が、きちんと心のケアをされ、私のようにうつになって医師をやめてしまわないことを願います。
まとめ
今回は、私のトラウマも蘇ってしまったので、ニュースについて書きました。医師を取り巻く環境を冷静に考えてみるとともに、自分のネガティブな体験についても、事実と認知の歪みによるものとを区別して、振り返ってみたいと考えていましたが、なかなか難しく、何度も書き直しをしました。
トラウマを解放するのは、本当に難しいですね。
最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。
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